Glencore×Nth Cycle、10億ドルの電池リサイクル契約が示す原料争奪戦

Glencore×Nth Cycle、10億ドルの電池リサイクル契約が示す原料争奪戦のイメージ

ニュースの概要

米国のバッテリーリサイクル企業Nth Cycleが、資源大手Glencoreと10年間・総額10億ドル規模の供給契約を結んだと報じられた。Glencoreは年間約2.4万トンの黒鉱(=廃電池を粉砕して作る黒色の粉末原料)をNth Cycleに供給し、Nth Cycleは独自の電気化学抽出技術でリチウムやニッケルを取り出し、炭酸リチウムやニッケル系中間原料としてGlencoreに納品する。原料を渡した側が加工後の製品を買い戻すという珍しい仕組みで、電気自動車の普及に伴い高まる重要鉱物の調達競争のなかで、資源メジャーが廃電池を新たな供給源として本格的に取り込み始めた動きとして注目されている。

引用元: Nth Cycle、Glencoreと再生鉱物の大型供給契約を締結(Middle East Metals / Reuters)

分析・見解

年2.4万トンの黒鉱契約が映す「原料の奪い合い」の本気度

Glencoreのような世界的な資源商社が、廃電池由来の原料を10年という長期スパンで囲い込みにかかった意味は大きい。年間2.4万トンの黒鉱(廃電池を破砕・粉砕してできる黒色の粉末原料)は、電気自動車にして数万台分の電池に相当する量になる。鉱山開発には通常10年前後の準備期間がかかるのに対し、廃電池はすでに市場に大量に存在し、今後数年で回収量が急増していく。Glencoreにとって、新しい鉱山を掘り当てるよりも先に「都市鉱山」を押さえるほうが、供給の不確実性を減らす近道になっている。

電気化学抽出という選択が変えるコスト構造

Nth Cycleが採用する電気化学抽出(=薬品をほとんど使わず、電気の力で金属イオンを選び分けて取り出す技術)は、従来主流だった湿式製錬(酸で溶かし出す方式)に比べて、使用する薬剤の量と排水処理の負担を減らせる点が特徴だ。薬品コストは原油や硫黄の市況に左右されやすく、価格変動リスクの一因になってきた。電気を主な入力にする方式は、再生可能エネルギーを調達しやすい立地であれば、長期的なコスト予測を立てやすいという利点がある。

Glencoreが握る「川上から川下まで」の再現性

Glencoreはもともと鉱山開発から製錬、トレーディングまでを垂直統合してきた企業だ。今回の契約は、その延長線上にリサイクル原料を組み込んだにすぎない。似た動きは米Redwood MaterialsとFordやトヨタとの提携、韓国の電池材料メーカーが中国以外の黒鉱を求めて動く事例にも共通する。違うのはGlencoreが「原料を供給する側」に回っている点だ。自社で回収した黒鉱を加工業者に渡し、出来上がった中間原料を買い戻すという、製錬所を自前で持たない「バーチャル製錬」に近い形を作ろうとしている。

日本の電池リサイクル事業者が見るべき現実

日本国内では黒鉱の絶対量がまだ少なく、同規模の契約をすぐに再現するのは難しい。しかし、原料を自ら所有せず加工能力だけを提携先に確保させるという契約設計は、資本力に乏しい国内の中堅事業者にとっても参考になる発想だ。自社で抽出設備に大きな投資をする代わりに、技術を持つパートナーに長期の受け入れ枠を約束させ、価格変動リスクを分け合う契約を結ぶという選択肢が現実味を帯びてくる。住友金属鉱山やJX金属といった国内非鉄大手が海外の黒鉱調達に動き始めているのも、同じ危機感の表れだろう。

ビジネスへの影響

長期契約は「量」より「価格連動条項」を精査すべき

今回のような10年契約を評価する際、注目すべきは総額の大きさではなく、価格をどう連動させているかだ。リチウムやニッケルの相場は過去数年で数倍の変動を経験しており、固定価格で長期契約を結べば、どちらか一方が損失を抱え込むリスクがある。実務担当者が同様の契約を検討する際は、市場価格への連動幅、最低保証価格、原料品位が基準からずれた場合の調整条項の3点を必ず確認しておきたい。

中間原料での提携は日本企業にとって現実的な入口

炭酸リチウムやニッケル系中間原料の形で受け渡しをする方式は、電池材料メーカーや商社にとって参入障壁が低い。自社で電気化学抽出設備を持たなくても、既存の精製・加工工程に組み込める中間原料であれば、追加投資を抑えながら再生材の調達比率を高められる。自動車メーカーが掲げる再生材使用比率の目標達成にも直結するため、原料商社や電池メーカーの調達部門は、こうした中間原料の供給元を早めにリスト化しておく価値がある。

調達部門が今すぐ着手できる3つの実務ステップ

第一に、自社が保有する使用済み電池・黒鉱の量を棚卸しし、外部に供給できる余力を把握すること。第二に、電気化学抽出や湿式製錬など複数の処理技術を持つパートナー候補を比較し、価格連動条項のひな形を事前に用意しておくこと。第三に、契約期間中に技術が陳腐化するリスクに備え、5年程度の中間見直し条項を盛り込んでおくことだ。Glencoreの契約設計は、これらを一度に満たす一つのモデルケースとして参考にできる。

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