LFP電池からリチウムを取り戻す、シンガポール新工場が示す小規模リサイクルの勝ち筋
ニュースの概要
シンガポールの新興企業NEU Battery Materialsが、トゥアス地区でリン酸鉄リチウム(LFP)電池のリサイクル工場を稼働させ、同時に760万米ドルの資金調達を終えた。年間約1,300トンの電池材料を処理できる設計だが、当面はフル稼働にしない。電池工場で出る端材や使用済み電池を砕いて得られる「ブラックマス」から、電池グレードのリチウムを取り出す事業である。電気、水、再生可能な薬剤を使う工程を採る点も特徴とされる。大型化を急がず、小さく始めて実績を積む構えだ。
引用元: シンガポールのNEU Battery Materials、EV電池リサイクル工場を稼働し760万ドルを調達(Channel NewsAsia)
分析・見解
1,300トンは小さいのか。段階稼働の判断を読む
NEU Battery Materialsが動かし始めた工場の年間処理能力は、約1,300トンである。しかも当面はフル稼働にしない。欧州や中国の大型拠点が数万トン規模で語られることを思えば、確かに小さい。
ただ、この小ささには筋が通っている。LFP電池を積んだEVが使用済みとなって大量に戻ってくるのは、まだ先だ。今の主な原料は、電池工場で出る切れ端や不良品である。需要が育つ前に巨大な設備を建てれば、動かない資産を抱えることになる。稼働率を段階的に上げる方針は、慎重というより現実的だ。
ニッケルもコバルトも無い電池で、旨みはリチウムに絞られる
LFP電池は、鉄とリン酸を使う。ニッケル系の電池と違い、高値で売れる金属がほとんど含まれない。回収の価値はリチウムに集中する。だから採算は、リチウムの相場と、取り出した材料の純度で決まる。
同社は端材や使用済み電池を砕いて、ブラックマス(=電極材が混ざった黒い粉)を作り、そこから電池グレードのリチウムを回収する。電池グレードとは、新品の電池材料に戻せる純度のことだ。ここに届かなければ、安い工業原料として売るしかない。純度の壁を越えられるかが、事業の分かれ目になる。
電気と水と再生薬剤で回す工程は、何を変えるのか
同社は、電気、水、再生可能な薬剤を使う工程を採る。リサイクルは環境に良い事業と思われがちだが、高温処理は大量のエネルギーを使い、強い薬品は廃液の処理費を生む。薬剤を再生しながら使えるなら、調達費と廃棄費の両方を抑えられる可能性がある。
一方で、実験室の数字と工場の数字は別物だ。薬剤の再生率、リチウムの回収率、設備の稼働時間といった実績が公開されて初めて、強みと呼べる。今回のフル稼働見送りは、その検証期間でもあるだろう。
端材が先に立つ事業なら、立地が競争力になる
見落とされがちな点がある。初期の原料が端材なら、競争力を決めるのはEVの販売台数ではなく、電池工場との距離だ。端材は品質が一定で、成分も分かっており、運搬の手間も少ない。使用済み電池より扱いやすい。産業が集まるトゥアスに拠点を置けば、域内の電池・電子部品メーカーから原料を集めやすい。
半面、国内の原料だけでは限りがある。東南アジア各国から集めるなら、廃棄物の国境をまたぐ移動に関する規制が壁になる。工場の稼働率は、技術より先に、制度への対応と物流で決まる可能性が高い。
ビジネスへの影響
電池メーカーと調達担当が確認したい三つの点
電池や電池を使う製品を作る企業にとって、端材の処分は費用から収益に変わりつつある。確認したいのは三点だ。第一に、自社の端材と使用済み品の量と成分。第二に、委託先が出す回収材料の純度と、その証明方法。第三に、回収材が新品材料としてどこまで使えるかの条件である。契約の前に、小ロットで試験を依頼するのが現実的だ。
欧州では、電池への再生材の使用や情報開示を求める動きが進んでいる。輸出する企業は、取引先から再生材の証明を求められる日が来ると考えて備えたい。
投資家と新規参入者は稼働率と原料契約を見る
リサイクル事業の評価では、設備の大きさより、稼働率と原料契約が重要だ。今回の760万米ドルの調達は、巨大な工場を建てる資金というより、小さく始めて実績を積む資金と見るのが自然である。提携や出資を考える側は、原料の確保先、回収材の売り先、リチウム相場が下がった場合の採算ラインの三つを必ず尋ねたい。
相場が下がると、回収事業の収益は一気に薄くなる。固定費を抑えた小規模設備から始める手法は、その変動に耐えやすい。
日本企業は大規模集約か近接分散かを選ぶ
日本でも、電池の端材や使用済み品は今後増える。選択肢は二つある。一つは大規模な拠点に集める方式、もう一つは工場の近くに小さな拠点を置く方式だ。自社の端材が年に数百トン程度なら、輸送費と待ち時間を減らせる近接型が有利になる場合がある。
比べるときの指標は、リチウムの回収率、材料の純度、処理1トンあたりの電力と薬剤の量である。数字を出せる相手かどうかが、委託先を選ぶ最初の基準になる。