電池リサイクル工場が止まった理由 原料不足が突きつける事業の死角
ニュースの概要
韓国GSグループ系の電池リサイクル企業Energy Materialsが、10月28日に慶尚北道・浦項の事業所でリサイクル操業を止めた。この工場は、使用済み電池を砕いて得られる黒い粉(ブラックマス)から、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガンを取り出していた。停止の理由として報じられているのは、加工する原料が足りないことと、稼げなくなったことの二点である。EV電池のリサイクル業界は、将来の廃電池の急増を見込んで大型の設備投資を進めてきた。だが足元では、工場に運び込まれる原料そのものが想定より少ない。設備は先に立ち上がったのに、肝心の中身が届かないという構図が表面化した出来事といえる。
引用元: 韓国Energy Materials、原料不足と採算悪化で電池リサイクル事業を停止(MarkLines)
分析・見解
工場は建ったのに、肝心の原料が届いていない
EV向けの電池は、車に積まれてから寿命を迎えるまで、おおむね8年から15年かかる。本格的なEVの普及が始まったのは2010年代後半であり、大量の廃電池が出てくるのは2030年代とみられている。つまり現在のリサイクル工場は、数年から十年ほど先の需要を前提に建てられている。
浦項の停止は、この時間のずれが現実の経営問題になった例である。工場を動かす原料は、現時点では主に二つしかない。一つは電池メーカーの製造工程で出る不良品や切れ端(スクラップ)。もう一つは、早めに退役した一部の使用済み電池である。前者は工場の歩留まりが上がるほど減っていく。製造技術が成熟すれば、捨てる量は少なくなるからだ。
採算を左右するのは技術より原料の取り合い
リサイクルの利益は、取り出した金属の価格から、原料の仕入れ値と処理費用を引いたものになる。ここで厄介なのは、原料の仕入れ値が金属の相場に連動して動くことだ。リチウムやコバルトの価格が下がると、売値は落ちる。ところが原料の奪い合いが続くと、仕入れ値は下がりにくい。結果として、売値は安く、仕入れは高いという挟み撃ちになる。
しかも電池の中身は変わりつつある。コバルトを多く含む高価な電池から、鉄とリンを使う安価なタイプへ移る流れが強まっている。後者は回収できる金属の価値が低く、同じ量を処理しても儲けが薄い。つまり、廃電池の数が増えても、1個あたりの価値が下がれば採算は改善しない。ここは見落とされやすい点である。
同じ構図は他の国や他の素材でも起きてきた
似た事例は過去にもある。太陽光パネルのリサイクルでは、大量廃棄の時期が読めないまま設備が先行し、稼働率の低さに悩む事業者が各国で出た。鉛蓄電池では、回収網を握った事業者だけが長く生き残った。共通する教訓は、処理技術の優劣よりも、原料を安定して集める仕組みを持つかどうかが勝敗を分けるという点だ。
欧州では電池に関する新しい規則が、一定割合のリサイクル材の使用を義務づけつつある。この需要が確実になれば、再生金属の買い手は安定する。ただし買い手がいても、売るものがなければ工場は動かない。需要の側の制度だけが先に整い、供給の側の回収網が追いついていないところに、現在のひずみがある。
今後は集める力を持つ企業に再編が進む
今後は、設備を持つ企業よりも、廃電池の流れを握る企業の発言力が強まるだろう。自動車メーカーや電池メーカーと長期の引き取り契約を結べた事業者は、稼働率を保てる。逆に契約のない単独型の工場は、今回のように操業の一時停止に追い込まれるおそれがある。業界は数年のうちに、提携や統合による整理の段階に入るとみられる。
ビジネスへの影響
調達側の企業は処理先を一つに絞らない
電池を使う製造業や自動車関連の企業にとって、今回の停止は他人事ではない。リサイクル先として契約していた工場が止まれば、使用済み電池や製造時の不良品の行き場がなくなる。保管には火災対策などの費用がかかり、放置すれば法令上の問題にもなる。
対策として、処理委託先は最低でも二社に分け、地域も離しておくことが望ましい。契約書には、操業停止時に引き取りを他社へ切り替えられる条項を入れておきたい。あわせて、委託先の稼働率や原料の確保状況を、年に一度は聞き取る習慣をつけるとよい。
参入や投資を考える企業は回収網から着手する
これからリサイクル事業に関わる企業は、まず工場ではなく集める仕組みから設計すべきである。具体的には、販売店や整備工場、解体業者との回収契約、運搬の安全基準、保管拠点の配置が先に決まっていなければならない。設備投資はその後で十分間に合う。
また、収益を金属の相場だけに頼らない工夫も要る。処理費を排出側から受け取る形にすれば、相場が下がっても一定の収入が残る。再生材の販売先を電池メーカーと事前に決めておく方法もある。国内でも電池の回収やレアメタルの確保は経済安全保障の課題になっており、補助制度の活用も含めて、早めに情報を集めておく価値がある。